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おかべたかしの編集記

読書・執筆・育児の記録と、お知らせと。

『百年の誤読』(2017読書4)

1900年から2000年までの100年間のベストセラーをご両人が読み、思う存分、言い合うという本書。対談で読みやすいうえ、勉強にもなるしで実に楽しかったです。

百年の誤読 (ちくま文庫)

百年の誤読 (ちくま文庫)

 

 近代の「なんでこれがベストセラー?」というツッコミも妙味ありますが、1900年代前半のベストセラーの時代背景とか興味深い。《古典の換骨奪胎のお手本、『羅生門』》といった見出し力も一流。手軽にパラパラとも読めるので「トイレ本」としても重宝しました。以下、本書で知った読んでみたい作品をメモがわりに記録。

赤頭巾ちゃん気をつけて (中公文庫)

赤頭巾ちゃん気をつけて (中公文庫)

 
日本人とユダヤ人 (角川文庫ソフィア)

日本人とユダヤ人 (角川文庫ソフィア)

 
新装版 限りなく透明に近いブルー (講談社文庫)

新装版 限りなく透明に近いブルー (講談社文庫)

 
細雪 (中公文庫)

細雪 (中公文庫)

 
冥途―内田百けん集成〈3〉   ちくま文庫

冥途―内田百けん集成〈3〉 ちくま文庫

 

ちなみにこの本、amazonでは文庫しか出てきませんでしたが、2004年初版の単行本の装丁が実にいい。これ「百年の孤独」(という焼酎があるのですが)のパロディですよね?きっとね? 装丁、南伸坊さんかー。「なんかシンプルだけどいいな!」という装丁に出会うと、個人的に南伸坊さんの確率高いのです。僕。

『本屋、はじめました』(2017読書3)

2016年1月10日、荻窪にできた「新刊書店 Title」の辻山さんによる開店までの記録。

本屋、はじめました―新刊書店Title開業の記録

本屋、はじめました―新刊書店Title開業の記録

 

 共感するところが多く、とくにこの部分をぜひ多くの人に読んでほしいと思いました。

《<最近思うことは「切実な本」こそ売れているという事です。「真面目な本」と言ってもいいかもしれません。著者が書くしかなかった、自らの底と向き合い、編集者がその想いを汲み取るしかるべき形で包み、それを丁寧な販促で伝えていく。マーケティングの発想からは、そうした本は生まれない。>
マーケティングから売れる本の何が良くないかと言えば、必ず違う似たような本に取って変わられるからです。言ってみれば「替えがきく」という事なので。本は、元は一冊一冊「替えがきかない」はず。替えがきかない「切実な本」にこそ、人の興味はあると思います。>》

これは辻山さんがツイッターに投稿した一文なのですが、この「替えがきかない本」というのが、Titleという書店の特徴を言い表していると思います。

僕は今、本を書いて生活しているので、書店にはよく行きます。企画のための「インプットの場」であるし、大好きな「落ち着く場」であるし、何よりも自分が作った本が売られている「晴れの場」であるし。当然、初めての書店に行けば、自分の本がどこにあるのか探すわけですが、このときいろんなパターンがあります。
そりゃ、平台にドーン!と何面にも置いてあるというのがいちばん嬉しいですが、ま、これはお祭りのようなもの。ジャンルのコーナーに、5冊ほど平積みになっていれば、担当の方が推してくださっているのかなと、嬉しい想いですけど、棚に1冊だと通常がっかりします。でも、棚に1冊入っているだけでも嬉しい書店というのがあるのです。それは、書店の方が、丁寧に一冊、一冊選んで売っていることがわかる棚の店です。まさに、たった1冊でさえ「替えがきかない」本を売っているお店です。このTitleにきたとき、丁寧な棚だな。そして好きな本が多いなと、感じました。
この「好きな感じ」とは抽象的なのですが、今回この本を読んで、僕が好きな理由がなんとなくわかったのです。

《店主が厳選した品揃えを提案する、いわゆる「セレクト書店」というものにも抵抗がありました。自分も客として、さまざまな「セレクト書店」に足を運びましたが、特に最近ではその品ぞろえが似てくる傾向にあり、新しい店なのだけれど既視感が強い店が増えてきたように思います。》

そうなんですよね。僕も同じように感じてて、辻山さんも挙げていた《武田百合子高山なおみ松浦弥太郎》といった方々の本を見かける書店が多くなった。個人的には『父の詫び状』(向田邦子)をよく見かけて「ここも詫び状系なんだなぁ」と思っていたのです。もちろん、こういった本が悪いのではないのですが、こういった本を選ぶと「わかった感じが演出できる」という空気があったように感じていました。

そんな想いがあったときに出会ったTitleの棚は、そういったセレクト系とも異なっていました。選んだ人が浮かび上がるような棚でまさに「替えがきかない」1冊で構成されているのですが、懐かしい町の本屋のような感じもする。頑張ってるけど、頑張りすぎていないというか。そんな空気が、とても気に入りました。

それから折々、ふらっとTitleに足を運ぶようになりました。最寄りの荻窪駅から歩くと10分少し。決して利便のいい場所ではありませんが、この「わざわざ行く感じ」も好き。僕は、企画を考えに行くことが多いので、道中あれこれ考え、Titleの書棚を見ながらあれこれ考え、最後は併設のカフェで書き物をして帰ります。Titleでは著者イベントもやっているのですが、一度、ふらっと覗きに行ったら、別の好きな書店の方にばったりお会いして、イベント後、終電ギリギリまで飲んだこともあったっけ。なんかいい空気があるのです。

この本、「お店を始める人のための本」という側面もあるでしょうが、僕は小さくても「替えがきかない」存在であろうとする人におすすめしたいな。僕もこれからも「替えのきかない本」を作っていこうと改めて思えたのです。がんばろう。

❇︎ちなみに僕が今好きな他の書店は、東京だと神保町の「東京堂」と、新宿の「STORY STORY」と、京王線・柴崎の「手紙社」です。どちらもカフェ併設で本を買ったあと、読んだり書き物ができるのがいいですね。京都だと「丸善本店」。京都マルイの「フタバプラス」も好きでしたが、今月で閉店するようですね。

『もし京都が東京だったらマップ』(2017読書2)

今年の2冊目はこちら。

もし京都が東京だったらマップ (イースト新書Q)

もし京都が東京だったらマップ (イースト新書Q)

 

 年末、京都に帰省した折、大好きな四条河原町の「FUTABA+京都マルイ店」で買ったもの。タイトル通り「もし京都が東京だとしたら」という仮定のもと、「赤羽は四条大宮」「岡崎は上野」などと特徴が共通する町を紹介することを核とした本です。

 本を見たとき、ネットの集合知によって作られた「ネタ本」かなという軽い気持ちで手にとったのですが、いい意味で裏切られた佳作でした。最近、読んだ京都本のなかで一番のオススメです。

 まず、この著者である岸本さんの立ち位置がいい。彼女は、京都出身で、幼少の頃から建築の仕事がしたいと夢見て、不動産業界に就職。当初、東京で働いていたのですが、京都に戻ってきて、京都に移住したいと考える人への不動産提案や、京都にある不動産の有効活用をガイドする、フリーの不動産屋さんなのです。そんな岸本さんが東京から来た人に「京都の北山というのは、東京の青山のようなところですよ」と説明するために「もし京都が東京だったらマップ」を作り始めたのです。

 こういった動機で作られた地図は、よくできています。僕は、京都で18年過ごした後、東京で25年以上過ごしてますが、なかなかうまいと思う。

「烏丸=丸の内」というのは、誰でも思い浮かぶでしょうが、「北王路=二子玉川」「御所南=目白」とか、たしかになぁと。「北野天満宮周辺=松陰神社前」って、鋭いのですが、このセンス、どれだけの人に伝わるでしょうか。僕は、この二つの町に近いところに住んでいる(いた)ので、よくわかりますがこれも上手(松陰神社前ってここ数年で、面白い個人店が増えた楽しい町になったのです)。「叡山電鉄沿線=JR中央線沿線」などは「えー! そう? まぁそうか。そうだなぁ」という4段落ちのような納得感。沿線の広さ、長さなど比べるべくもないですが、一乗寺あたりの空気感って、たしかに西荻窪あたりに似てますよねぇ。「池袋と鴨川だけは、どことも似てなかった」というのも、すごく納得。池袋は、他にない磁場があるのです。

 このように「そう?」とか「そうそう!」で、楽しみながらも京都の街の特徴がなんとなく理解できるのもこの「マップ」の良いところ。

 そのほかにも、京都は手づくり市が豊富にあって実店舗を持たずとも、商売のトライができるフリーランスに優しい街など、たしかにと思う指摘が豊富。京都の寺社、仏閣などの観光ガイドからは得られない「住む」を意識した京都ガイド。これから京都に住もうと考えている人にはもちろん、ぶらぶら京都を歩きたい人にもオススメですよ。

 

『みかづき』(森絵都) <2017 読書1>

年末年始のお供にしていた森絵都さんの『みかづき』読了。昭和30年代、まだ塾に通っているというだけで白い目で見られるという時代(こんな時代があったことを僕は知りませんでした)に、千葉の片田舎で学習塾を立ち上げた夫婦。ここから孫の代に至るまでの三代記、大長編でした。

もう長編ミステリーなどは若干食傷気味で、こういった人生記こそ、これからたくさん読みたいと思った。さすが名手・森絵都さんは上手で、関心ある教育問題が中心ということもあり興味深く読めました。塾を立ち上げた初代の夫婦も魅力的ですが、平成の今を生きる、おっとりとした孫息子の成長ぶりが見ていて微笑ましい。

彼は、金銭的な理由で塾に来られない子どもたちの学習支援組織を作るのですが、そこで出会った、もともと同じような境遇だったスタッフのこんなことばが印象的でした。

《でも私、あのころの自分も、今のあの子たちも、かわいそうとは思ってません。お金はなくても、母親のど根性を見て育ったおかげで、私、裕福なうちの子にはない強さをもらえたと思ってますし、カズや真奈ちゃん見てても、そういう力、感じますもん。なんていうか、ほんまもんの『生きる力』?》

これからの時代、学力も大切だけど「生きる力」を育てる必要があるんじゃないかと思い至る。そしてこの本には「生きる力」が強い人がたくさん出てくるのです。

みかづき

みかづき

 

 ❇︎今年はこんな感じでメモ代わりの読書日記を続けていく予定です。ゆるりとおつきあいください。

あけましておめでとうございます。今年は「時代」をくらべます

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

昨年は「東西」をくらべてましたが、今年は「時代」をくらべます。昭和と平成、何が変わったーということで2月に刊行予定です。

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こんな昭和なお寿司を作ってもらったりして、1ネタ1ネタ、頑張って作っておりますので、ご期待くださいませ。

今年は、ほかにもいろいろ本を作りつつ、ライブ的な動きもしていきます。あと、このブログも昨年の150%増しくらいで更新しますので、ぜひともお付き合いくださいませ。

平成29年1月1日。

おかべたかし

 

2106年の嫉妬本大賞『「罪と罰」を読まない』

年の瀬ですので、今年の「嫉妬本」大賞を発表しておきます。この大賞は、執筆や編集で20年以上、本作りに携わってきた僕からみて「いいなぁ。こんな本、俺も作りたい。」という作品を選ぶものです。今年は『罪と罰を読まない』としました。

 まず根幹の発想がすごい。

《ドフトエフスキーの名作『罪と罰』を読んだことのない4人が集まって、わずかなヒントを頼りにどんな話か予想する》

この模様を本にしているわけですが、これが実に面白い。主人公「ラスコーリニコフ」を「ラスコ」と呼ぶくだけた空気感と、三浦しをんさんらのわずかなヒントから、鋭く物語の展開を読む推理力がうまく融合して、ページをめくる手が止まりませんでした。

「読んでない本」でも、これだけ魅力的な題材にできるとは実に驚きで、本の新しい可能性を見出したのではないでしょうか。

あと、この本がすごいと思うのは、企画書の段階では、面白いのかそうでないのかまったくわからないところ。企画が通らないならやめるいう姿勢では、この本は出なかったのではないでしょうか。発想を得た人の「面白いからとにかくやろうよ!」というのが推進力になって形になったはず。ここに共感するのです。

僕も、ここ数年、企画書を作るよりも、そのモノの一端を作り上げることを意識しています。本当に面白いものは、企画書なんて面倒なもの(またそれを通す面倒なこと)など、待ってられずに生み出されてくるもの。そんな意識をこの本からすごく感じました。いいなぁこんな本を作れて。そしてヒットさせて!

同業のみなさんも「いいなぁ」と思う嫉妬本を紹介してみてはいかがでしょうか。さて来年もこんな風に嫉妬したいし、同業のみなさんを嫉妬させたいですね。

では、みなさんよいお年をお過ごしください。

❇︎ちなみに去年の大賞はこちらの作品でした。

okataco.hatenablog.com