おかべたかしの編集記

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今年の私的ベストワン本『「ニッポン社会」入門』

「ニッポン社会」入門―英国人記者の抱腹レポート (生活人新書)

「ニッポン社会」入門―英国人記者の抱腹レポート (生活人新書)

 

今年読んだ本で、いちばん面白かったのは、この『「ニッポン社会」入門』。作者はコリン・ジョイスという日本で新聞記者だったイギリス人です。 副題に《英国人記者の抱腹レポート》とあるのですが、本当に笑った。外国人が見た日本というのは、ある種、ステレオタイプな物語が出来つつあるけれど、彼は本当に自分の感性と自身の体験を綴っていて、とても新鮮。いちばん笑ったのは、この箇所です。


《「日本語、お上手ですね。ペラペラですよ」。ぼくは初めてこの言葉を言われたときのことをいまでも覚えている。何を言われたのか、全然わからなかったからである。後で友達が「お上手」は「上手」と変わらないこと、「ペラペラ」は「流暢に」という意味だと教えてくれた。日本語が達者だと言ってもらったのに、当の本人はその日本語の意味がつかめなかったのだ。その滑稽さ加減に、ぼくは友達と二人で大笑いしてしまった》

 こういうことって今までもきっとあったと思う。でも、そこを反芻し、意味を探って、面白がるこのスタンスがいいなぁ。《整然としたプールは日本社会の縮図そのものだ》なんて記述もあるんだけど、こんなことを面白がるなんてなかなか気づかないもんね。

また、「失われた十年」なんて言い方があるけれど、彼はその時期に日本が遂げたこんな発展に言及する。
《良識あるイギリス人男性に、人生で大事なものをふたつ挙げてもらうとよい。みな口を揃えて、サッカーとビールと答えるだろう。ぼくの考えでは、このふたつの点において、日本はここ15年の間に、どうしようもなくダメな国から世界でも指折りの国へと目覚ましい進歩を遂げたように思うのだ》
経済の数値より、サッカーが強くなってビールが旨くなることのほうが重要かもしれないよね!

他にもジョイスのことばにまつわる発見が楽しい。
《「猿も木から落ちる」は、素晴らしいことわざだ。これに比べれば「Nobody is perfect.」などその足元にも及ばない。》
日本語と英語を掛け合わせた造語のお気に入りも新鮮。
《何といってもベストワンは「おニュー」だ。この言葉を初めて聞いたとき、ぼくは声を出して笑い、その日一日、この言葉について考えを巡らせた。英単語と日本語の丁寧語をかけ合わせるなんて!》

あと、こんな記述が興味深い。
《自動車は、発明された当初、水でもガソリンでも走ることができたらしい。ちょうどそのころアメリカはひどい干ばつに見舞われ、一方、石油は無限に採掘可能であるように思われていた。そこで自動車会社はガソリンを燃料にすることを決め、その後、百年にわたって、より良い内燃機関を開発することに努力が傾けられることになった。水蒸気を利用する外燃機関にたくさんの利点があったのだが、いまさら出発点に立ち戻ることは不可能だろう》

蒸気船は水で動くわけだから、水で動くクルマが主流になっても不思議じゃなかったという指摘なわけ。面白いよね。

「面白い」と感じる要素のひとつに、「視点の面白さ」ってのがある。子どもが話すことが面白いのは、大人がもっていない視点で話すから。このジョイスの面白さもそこにあり、この視点を得ると、日常の風景がまた面白く見えるという効果もあるね。
昔から、外国人による「日本見聞記」ってのは多々あったけど、本書はそのなかの新たなる傑作として数えられるんではないでしょうか。お勧めです。