おかべたかしの編集記

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2015年の嫉妬本大賞『世界の辺境とハードボイルド室町時代』

もう年の瀬なので、今年のマイベスト本を発表しますと、それはそれはもう『世界の辺境とハードボイルド室町時代』なのです。

世界の辺境とハードボイルド室町時代

世界の辺境とハードボイルド室町時代

 

 著者は、誰も行かない世界の辺境をルポする「辺境作家」こと高野さんと、中世史が専門の清水さん。畑違いのご両人が「世界の辺境と日本の中世は似ているねぇ」と語り合うこの本には、新たな発見がたくさん詰まっています。

 

お互いの著作や分野に刺激を受けて、会話がどんどん転がる様が実に楽しい。

清水さんが、高野さんの著作にソマリランドであった民兵を「かぶき者」に例えている話から、こんな逸話が出てきます。

江戸時代の初期に現れたかぶき者は戦国時代の兵士の生き残りみたいなもので、街をふらふらして愚連隊みたいな振る舞いをしていたんですが、元禄期に入ってもまだそういう連中がいて、社会問題になるんですよね。<中略>あと、かぶき者は犬を食べるんですね。中世の日本人はわりとふつうに犬を食べていて、江戸時代になると食べなくなるんですが、かぶき者はわざと食べるんです。「戦国っぽい料理だから」という理由で。みんなで犬鍋か何かを囲んでわいわい騒いで、「俺たち、ぐれてるぜ」という雰囲気を出す。「かぶく」という行為を犬食に象徴させていたんです。

だから五代将軍徳川綱吉が「生類憐みの令」を出して犬を殺すことを禁じたのは、かぶき者対策だったんじゃないかとも考えられているんです。<中略>戦国時代は百年も前に終わったのに、何をやっているんだというのが彼のメッセージで、そのためのシンボルが犬だったんじゃないかって、近年言われていますね。

ソマリランド→かぶき者→犬食→綱吉→中世史の新説

こんな怒濤の展開が、随所にあるわけですが、通底するのは、室町時代や戦国といった日本の中世の状況と、アフリカ諸国の現状に似たところがあるというもの。

高野さんは、アフリカに行くと、日本史の知識をいろいろ思い出していくのです。たとえば、アフリカのソマリアで見たピストルから、日本の刀との類似性を見出していきます。

高野 ピストルっていうのは、どこの軍隊でも将校以上しか持てないんですよ。下士官と兵隊は自動小銃を持って最前線で戦いますが、将校は基本的に戦わない。ピストルじゃ戦えないですから。これは歴然としているんです。

清水 ピストルが最小限の護身用だとしたら、確かに刀と一緒ですよね。

今では、よくいわれる話ですが、昔の武士は刀で戦ったわけではないんですよね。役に立つのは、弓、そして槍。刀はシンボルであったり、最終的な護身や介錯に使うんですね。こういった日本文化の刀というものの在り方と同質のものを、アフリカで見つける。この逆もあり、世界の辺境を旅することで、日本の中世の事情を垣間みることができると、清水さんも語るのです。

この本、こういった「日本の中世⇔世界の辺境」というリンクの面白さはもちろんなのですが、歴史を研究するとはどういうことかという、清水さんの話がとても面白かった。僕も、歴史の本をよく作るので、こういう話こそ知りたかったというのが、たくさんありました。

◎中世史というのは、史料の量が適量であるため、新しい方法論を使って、それまで死んでいた史料を見直して歴史像を組み立てることができる。だから日本史の世界では、新しい方法論を開拓するのは、だいたい中世史の研究者だと言われている。

こんな日本史の話がとても刺激的。僕は、この清水克行さんという人を、この本で初めて知ったのですが、真摯で話が面白く、また若い(僕のひとつ上かな)ので、いつかどこかでご一緒したいとすごく思った。清水さんが、誰からも必要とされていなんじゃないかと思っていた時代、たった600部、9000円以上する本を講談社メチエの編集者が読んでくれて「何かもっと書きたいものがあるんじゃないですか」と打診してくれ「あのときが人生で一番うれしかったかもしれない」と回想する場面では、思わず鳥肌が立ったなぁ。すごい編集者、いるなー。そうして、書かれたのがこんな本。いつか読んでみたい。

喧嘩両成敗の誕生 (講談社選書メチエ)

喧嘩両成敗の誕生 (講談社選書メチエ)

 

 さて、この本、中身もさることながら、担当した編集者の力量が随所に出ていて本として素晴らしくかっこいいのです。

カバー画は、山口晃さん。武士が鉄砲持ってる「愚連隊」ぶりが、この本に素晴らしくマッチしているし、このタイトルも素晴らしい。村上春樹の元ネタを、これほどまで巧みになぞって新しいものを生み出しているのは感嘆に値する。あと、対談本って「なあなあ」になりがちだけど、ふんばって、少しでも新しい情報を入れようという姿勢が見えまくって、とにかく驚き尊敬しました。担当されたのは、河井好見さん。スゴい!

僕は今、書き手として活動しているけれど、その原動力は編集的な思考で、この河井さんには、とてもとても嫉妬しました。

そんな感情を忘れないためにも、今年から年間のマイベスト本は「嫉妬本大賞」と名付けようと、今、思い立った次第です。

出版界には、もっと編集者を称える本があってもいいと思うのです。そんな本を今年選ぶとしたら、僕は間違いなく本書を推します。

*編集者のみなさんも今年の「嫉妬本」選んでみてはいかがでしょうか。