おかべたかしの編集記

執筆・編集の記録とお知らせと。

「ハードカバー」で読みたい本『はてしない物語』 

『くらべる値段』では、安いものと高いものをくらべていますが、必ずしも安いものがダメで、高いものがいいと主張したいわけではありません。まえがきで《安いものには努力があり、高いものには夢がある》と書いてますが、しっかりとしたものならば、双方に意義があると考えています。ただ、とはいえ「これは高いほうがオススメ」というものもあります。そのひとつが『はてしない物語』という本です。

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文庫で買えば上下巻で1600円。ハードカバーで買えば2860円。これだけの価格差がありますが、ぜひハードカバーで買って欲しい。というのは、この本は、ハードカバーであることに大きな意味があるからです。

《表紙はあかがね色の絹で、動かすとほのかに光った。パラパラとページをくってみると、なかは二色刷りになっていた。さし絵はないようだが、各章の始めにきれいな大きい飾り文字があった。》

これは『はてしない物語』の冒頭部の一節なのですが、物語は、主人公であるバスチアンがこのように描写された本を手にすることで始まります。作者のドイツ人作家のミヒャエル・エンデは「読んでいる本の中に入ってしまう物語」としてこの物語を構想しました。そのためには、物語の中で主人公が手にしている本とまったく同じ装丁でまったく同じ中身の本でなければならないとこだわり、文章だけでなく、この装丁も含めた本そのものも作品と考えたのです。もうおわかりかと思いますが、ハードカバー版は、この文中の本とそっくりそのままの装丁になっているのです。さらに、この本は世界各国で翻訳され、各国の出版社によって装丁されたのですが、エンデは日本語版が一番よくできていると喜んだそうです。

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(写真・山出高士)

「あかがね色」を表現した実に見事な装丁です。上下巻のソフトカバーは、安くて持ち運びにも便利ですがが、エンデが構想した「本の中に入ってしまう」読書体験のためには、やはりハードカバーで読むべきだと思うのです。

はてしない物語 (エンデの傑作ファンタジー)

はてしない物語 (エンデの傑作ファンタジー)

 

人によって「ハードカバーで読みたい本」というのは、他にもたくさんあると思います。方々で聞いてまわったところ、『舟を編む』(三浦しをん/光文社)、『本日は、お日柄もよく』(原田マハ徳間書店)、『家守奇譚』(梨木香歩/新潮社)などなど、いろいろ教えてもらいました。文庫は安くて手軽だけど、ハードカバーにしかない良さってありますよね。いろんな書店さんで「ハードカバーで読みたい本フェア」やったら楽しいだろうなと思っています。