おかべたかしの編集記

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『残像に口紅を』を『似ている英語』で紹介していたコラム

昨日、書店に立ち寄ったら「話題の本のコーナー」に筒井康隆さんの『残像に口紅を』を見つけました。大きく平積みされていたのですが、「アメトーク」で話題になったようですね。実はこの本、2015年の6月に出した『似ている英語』という本のなかの『「コーヒーいかが?」で覚える円周率〜英語の不思議なことば遊び〜』というコラムの中で紹介したことがあります。なぜ「英語」とこの本がリンクしたのか……ちょっと当時の原稿を紹介してみますね。


「May I have a large container of coffee?」
 直訳すれば「コーヒーを大きい器で1杯いただけますか?」ってことなのですが、これは英語流の「円周率の覚え方」なんです。と、説明されてすぐにわかった人はかなり鋭い。多くの人は、これでどうやって円周率を覚えるのかわからないでしょう。
 答えをいうと、Mayはアルファベット3語で「3」。Iはアルファベット1語で「1」。haveはアルファベット4語で「4」……を意味しています。つまりこのフレーズで「3・1415926」を表しているというわけ。
 率直にいえば、あまり便利とも思えない不思議な覚え方なのですが、0を10文字で表現しつつ740桁に及ぶ文章を作った人もいるそうですから、それなりにポピュラーな手法なのでしょう。
 もうひとつ「不思議だな」と感じたものに「リポグラム」ということば遊びがあります。これは、特定のアルファベットを使わないというルールのもとに文章を作るというもの。もっとも有名なのは、アメリカの作家アーネスト・ヴィンセント・ライトが書いた『ギャズビー』という小説で、アルファベットでもっとも使用頻度が高いという「e」を、5万にも及ぶ物語を構成する単語に一語たりとも用いていないといいます。
 ただ、どれほどスゴいのか、今ひとつわかりにくい。そこで、同じようなことを日本でもやっている人はいないかと探したところ筒井康隆さんの『残像に口紅を』(中公文庫)という小説に出会いました。
 これは「リポグラム」のように、特定のことばを使わないのではなく、物語が進行するにつれて「使えることば」がどんどん減っていくという小説です。
《言語が消滅してゆく世界で、執筆し、飲食し、講演し、交情する小説家…ついに書かれた究極の実験的長篇》。これは単行本に添えられた帯のコピーですが、このように主人公は一人の小説家。「あ」ということばが消えたなら、「あ」のつくモノや人が消えるだけでなく、文中に「あ」ということばを使うこともできなくなるのです。正直、物語が面白いというよりも「よくこんなことに挑戦したな」という驚きのほうが強いのですが、他に類を見ないことだけは保証しますので、気になる方は一度手にとってみてください。ちなみにこの小説で、いちばん最後に消えた文字は何だと思いますか? 

この『残像に口紅を』の巻末には、一度使ったことばを本当に使っていなかったのかといった検証も含まれていて、この文庫自体が壮大な実験場のような様相になっています。とにかくすごい本!

残像に口紅を (中公文庫)

残像に口紅を (中公文庫)

 

 『似ている英語』も、おかげさまで発売から版を重ねて広く読んでいただいています。「manyとmuch」「highとtall」など似ている英語の違いが美しい写真で学べる一冊になっていますので、機会あればお手にとってくださいませ。

似ている英語

似ている英語