おかべたかしの編集記

執筆・編集の記録とお知らせと。

『みかづき』(森絵都) <2017 読書1>

年末年始のお供にしていた森絵都さんの『みかづき』読了。昭和30年代、まだ塾に通っているというだけで白い目で見られるという時代(こんな時代があったことを僕は知りませんでした)に、千葉の片田舎で学習塾を立ち上げた夫婦。ここから孫の代に至るまでの三代記、大長編でした。

もう長編ミステリーなどは若干食傷気味で、こういった人生記こそ、これからたくさん読みたいと思った。さすが名手・森絵都さんは上手で、関心ある教育問題が中心ということもあり興味深く読めました。塾を立ち上げた初代の夫婦も魅力的ですが、平成の今を生きる、おっとりとした孫息子の成長ぶりが見ていて微笑ましい。

彼は、金銭的な理由で塾に来られない子どもたちの学習支援組織を作るのですが、そこで出会った、もともと同じような境遇だったスタッフのこんなことばが印象的でした。

《でも私、あのころの自分も、今のあの子たちも、かわいそうとは思ってません。お金はなくても、母親のど根性を見て育ったおかげで、私、裕福なうちの子にはない強さをもらえたと思ってますし、カズや真奈ちゃん見てても、そういう力、感じますもん。なんていうか、ほんまもんの『生きる力』?》

これからの時代、学力も大切だけど「生きる力」を育てる必要があるんじゃないかと思い至る。そしてこの本には「生きる力」が強い人がたくさん出てくるのです。

みかづき

みかづき

 

 ❇︎今年はこんな感じでメモ代わりの読書日記を続けていく予定です。ゆるりとおつきあいください。

あけましておめでとうございます。今年は「時代」をくらべます

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

昨年は「東西」をくらべてましたが、今年は「時代」をくらべます。昭和と平成、何が変わったーということで2月に刊行予定です。

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こんな昭和なお寿司を作ってもらったりして、1ネタ1ネタ、頑張って作っておりますので、ご期待くださいませ。

今年は、ほかにもいろいろ本を作りつつ、ライブ的な動きもしていきます。あと、このブログも昨年の150%増しくらいで更新しますので、ぜひともお付き合いくださいませ。

平成29年1月1日。

おかべたかし

 

2106年の嫉妬本大賞『「罪と罰」を読まない』

年の瀬ですので、今年の「嫉妬本」大賞を発表しておきます。この大賞は、執筆や編集で20年以上、本作りに携わってきた僕からみて「いいなぁ。こんな本、俺も作りたい。」という作品を選ぶものです。今年は『罪と罰を読まない』としました。

 まず根幹の発想がすごい。

《ドフトエフスキーの名作『罪と罰』を読んだことのない4人が集まって、わずかなヒントを頼りにどんな話か予想する》

この模様を本にしているわけですが、これが実に面白い。主人公「ラスコーリニコフ」を「ラスコ」と呼ぶくだけた空気感と、三浦しをんさんらのわずかなヒントから、鋭く物語の展開を読む推理力がうまく融合して、ページをめくる手が止まりませんでした。

「読んでない本」でも、これだけ魅力的な題材にできるとは実に驚きで、本の新しい可能性を見出したのではないでしょうか。

あと、この本がすごいと思うのは、企画書の段階では、面白いのかそうでないのかまったくわからないところ。企画が通らないならやめるいう姿勢では、この本は出なかったのではないでしょうか。発想を得た人の「面白いからとにかくやろうよ!」というのが推進力になって形になったはず。ここに共感するのです。

僕も、ここ数年、企画書を作るよりも、そのモノの一端を作り上げることを意識しています。本当に面白いものは、企画書なんて面倒なもの(またそれを通す面倒なこと)など、待ってられずに生み出されてくるもの。そんな意識をこの本からすごく感じました。いいなぁこんな本を作れて。そしてヒットさせて!

同業のみなさんも「いいなぁ」と思う嫉妬本を紹介してみてはいかがでしょうか。さて来年もこんな風に嫉妬したいし、同業のみなさんを嫉妬させたいですね。

では、みなさんよいお年をお過ごしください。

❇︎ちなみに去年の大賞はこちらの作品でした。

okataco.hatenablog.com

 

おすすめの将棋本

昨年の秋頃から息子が急に将棋好きになり「将棋、習ってみるか?」と聞くと「習いたい!」というので調べてみると、幸いなことに最寄り駅に棋士高野秀行さんの将棋教室があったので、体験を経て入塾したのです。月に2回の「子ども将棋教室」ですが、通い出したらあっという間に強くなり、僕もほどなく勝てなくなりました。

こちらが勝ってばかりのときは「早く強くなれ」と思うものですが、こちらが勝てなくなると「せめて数回に一回は勝たないと父親としてマズいだろう」と思うようになり、独自の研究を始めることにしたのです。

ま、研究といってもいろんな本を読んだだけなのですが、それでもいくばくかは強くなって、今では息子に3回に1回は勝てるかなー。ま、それで僕が読んだ本のなかから、読みやすく、広くお勧めしたい本をメモがてらご紹介しておきます。将棋の本は、すごくたくさんあるのですが、駒の動かし方を書いた初心者本と「四間飛車居飛車」といった、なんかちょっと上級っぽいものばかりで、なかなかちょっと強くなってしまった息子に勝つって本が少ないのですが、そんななか、以下のような本はとてもためになりました。

羽生善治の将棋入門 ジュニア版

羽生善治の将棋入門 ジュニア版

 

 まずお勧めはこの本。ちょっと高価ですが、基礎から強くなるための要素がわかりやすく、かつ見やすく解説されていて素晴らしい。羽生さんもすごいのだろうけど、レイアウトも含めた編集力が高いです。将棋本にはこの本のような「ちょっと強くなった人がもう少し強くなるために必要なこと」が、あまりないように感じるんですがどうでしょうか。

寄せの手筋200 (最強将棋レクチャーブックス)

寄せの手筋200 (最強将棋レクチャーブックス)

 

 僕が子どもの頃はとにかく「王手!」が大事という意識でしたが、とんでもない勘違いでしたね^^:「玉は包み込むように寄せろ」という鉄則は、この寄せの手筋を学んでいけば、自ずと実践できるようになります。下手な人は読むだけで確実に強くなるんじゃないでしょうか。

 Kindleに入れて繰り返し目を通したのがこの本。《手筋とは駒の特性を生かしたさまざまなテクニックの総称》ですが、歩を効果的に打って攻撃の起点を作ったりと、知ってると知らないじゃ大違いなテクニックが満載。普通に打ってるだけではなかなか気づかないこれらの手筋は、知るだけで確実に強くなると思います。

強くなったのは、上記3冊の影響が大。あとは面白い本。

聖の青春 (講談社文庫)

聖の青春 (講談社文庫)

 

 定番中の定番ですが、やはり面白いです。映画も上映中で息子と見てきましたが本のほうが断然よいですね。将棋の面白さは映画ではわかりかねます。本がいいです。

真剣師小池重明 (幻冬舎アウトロー文庫)

真剣師小池重明 (幻冬舎アウトロー文庫)

 

 これはずいぶん前に読んだ超絶面白本。鬼六先生はすごいですよ。

将棋エッセイコレクション (ちくま文庫)

将棋エッセイコレクション (ちくま文庫)

 

将棋に関するエッセイを集めたアンソロジー。冒頭。中平邦彦さんの「聖者」というエッセイが、しびれる。実にしびれる。こんな一節、実にいい。

《アメリカの社会学者O・Eクラップは、人の社会的カテゴリーを次のように分類するそうだ。「英雄」「悪漢」「馬鹿」「無関心」。そして「英雄」と「馬鹿」を合わせ持つ者が「聖者」の属性を持つという。棋士、そのまま当てはまる。棋士は庶民の英雄だ。単なる名声だけでなく、実力の世界で、禁欲と自己統制によって獲得した地位だけに英雄的だ。そして何より将棋一本に打ち込んでいる。非生産的な、いわば無益な(功利性のない)ものに打ち込む。そこには世俗的な関心はなく、常識も欠落したりする。これはフールの属性だ。この二つが融合して存在する人たちに対し、一般の人は、自分がそうなろうと思わないが、尊敬を払うというのだ》

ひらけ駒!(1) (モーニングコミックス)
 

 将棋の漫画もいろいろあるけど、これがいちばん好き。 息子の成長も楽しいけど、将棋を知らなかった母親の成長が面白いのです。

透明の棋士 (コーヒーと一冊)

透明の棋士 (コーヒーと一冊)

 

 ミシマ社のこの本もよかった。僕は、棋力アップは息子の相手ができる程度で充分ですが、棋士とか将棋をとりまく世界のことはもっと知りたい。実に興味深い。

ちなみに今、1週間でいちばん楽しみにしているテレビ番組は日曜日の朝にやっている「NHK杯」の対局でして、将棋だけでなく棋士を見るのも面白い。新聞の将棋の記事を毎朝読んでいます。そうそう「東京新聞」の将棋担当の方にお願いなのですが、「△4六飛」といった駒の指示が3つも4つも続くともう読むのが大変なのでせいぜい2つくらいまでにしてくださいね。

というわけでまだまだ将棋への興味が尽きない日々を送っているのでした。

「くらべる東西」のテレビ出演情報

最近、テレビにお世話になることが続いたので、まとめてご紹介しておきます。

まず、tvkという神奈川県を中心に放送しているテレビ局のお昼のワイドショー「猫のひたいほどワイド」の11月1日放送で「くらべる東西」の特集をしていただきます。

通称「ねこひた」というのですね、この番組。先日、ロケがあってスタジオ見学させてもらったのですが、併設されたカフェで生放送が見られるという、同社の看板番組。レポーターの和田雅成さんとロケに行った「いなり湯」が、まさに由緒正しき東の銭湯で素晴らしかったです。

続いて朝日放送さんの人気番組「ビーバップハイヒール」でも「くらべる東西」を特集してもらいます。11月10日放送予定。この番組スタッフの方々の熱意が素晴らしく「くらべる東西」の本に載っていない新事実も続々発見されて面白い番組になっていると思いますので、ぜひご覧くださいませ。

朝日放送 | ビーバップ!ハイヒール

そして先週は「めざましテレビ」で「くらべる東西」を「マニアックだけど気になる写真集」として紹介してもらいました。見てなかったのですが、ランキング形式で、こんな順位だった模様。

5位『くらべる東西』

くらべる東西

くらべる東西

 

 4位『街角図鑑』

街角図鑑

街角図鑑

 

 これは僕も読みました。パイロンとか三角コーンとかいろんなバリエーションのを紹介してて、想像以上にすごかった。

3位『シブいビル』

シブいビル 高度成長期生まれ・東京のビルガイド

シブいビル 高度成長期生まれ・東京のビルガイド

 

 これも見ましたねー。好きです、建築ネタ。

2位『世界のトイレ』

何度でも行きたい 世界のトイレ

何度でも行きたい 世界のトイレ

 

 そして1位は『日本のブックカバー』

日本のブックカバー

日本のブックカバー

 

 書泉ブックタワー秋葉原店の方が紹介してくださった模様。今度、御礼を兼ねて見学しに行こうかと思います。

『暮しの手帖』が「装釘」という表記にこだわる理由

『くらべる東西』を『暮しの手帖』で紹介してもらったのですが、そこである気づきがありました。

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デザインを担当してくれている佐藤美幸さんの名前も出ていて嬉しいなーと思っていたとき「装丁」ではなく「装釘」と書いてあることに気づきました。どちらも「そうてい」と読みますが、なかなか「装釘」とは書かない。というか、この表記、初めてみましたよ。

なんでだろ。こだわりなのかなと思い調べると、まさに『暮しの手帖』のこだわりで、それも『とと姉ちゃん』に登場する花山伊佐次のモデルとなった初代編集長の花森安治さんのこだわりだったのです。

装釘には「装丁」「装訂」「装釘」「装幀」と4つの表記があるようですが、花森さんは、それぞれのことばの意味を吟味すると、どうしても「装釘」になると考えたようです。

「幀という字の本来の意味は掛け物だ。掛け物を仕立てることを装幀という。本は掛け物ではない。訂という字はあやまりを正すという意味だ。ページが抜け落ちていたり乱れているのを落丁乱丁というが、それを正しくするだけなら装訂でいい。しかし、本の内容にふさわしい表紙を描き、扉をつけて、きちんと体裁をととのえるは装訂ではない。作った人間が釘でしっかりとめなくてはいけない。書物はことばで作られた建築なんだ。だから装釘でなくては魂がこもらないんだ。装丁など論外だ。ことばや文書にいのちをかける人間がつかう字ではない。本を大切に考えるなら、釘の字ひとつおろそかにしてはいけない」

文末にリンクしたサイトから引用させてもらいましたが、

書物はことばで作られた建築なんだ。だから装釘でなくては魂がこもらないんだ

って、素晴らしいことばだなー! 感服しました。僕も真似てこれから「装釘」と書くことにしよう。というか、出版界は「装釘」で統一してもいいんじゃないでしょうかね。

www.1book.co.jp引用した文は、以下の書籍にあるようです。読んでみよう。我が家は『とと姉ちゃん』録画したのを、家族でゆっくり見てまして、まだ次女がお嫁に行ったところあたりを見ております^^

花森安治の編集室

花森安治の編集室